行政書士は、開業すればすぐに稼げると考えて取るなら時間の無駄になりやすい資格です。日本行政書士会連合会の令和5年の調査では、回答者の76.8%が年間売上500万円未満でした。会社員のまま生かす人や、次の資格につなげる人には無駄になりません。
試験は年に1回だけで、落ちれば次の挑戦は1年後です。仕事と家庭を抱えて勉強する人ほど、「そこまでして元が取れるのか」「独占業務があるのに食えないと聞くのはなぜか」が気になるはずです。この記事では、こうした疑問を公式の数字で確かめ、取る前に判断できるように整理しました。公式の数字は、日本行政書士会連合会・行政書士試験研究センターの発表と法令の原文で確認しています(2026年10月17日確認)。
結論:無駄になるのは「合格すれば仕事が来る」と思っている人
行政書士の勉強が時間の無駄になるかどうかは、合格したあと何に使うかで決まります。「開業すれば仕事が来る」「資格さえあれば何とかなる」と考えている人は、無駄になりやすい側です。資格は仕事を受けられる許可であって、仕事そのものを連れてきてはくれません。
反対に、無駄になりにくいのは次のような人です。会社で許認可や契約書を扱っていて、その知識を仕事に生かしたい人。社労士や宅建など、次の資格への足場にしたい人。開業するにしても、営業や集客まで自分でやる覚悟がある人です。
判断の材料は3つあります。開業した人の売上の実態、合格してから名乗るまでにかかるお金、そして試験の仕組みです。順番に見ていきます。
「食えない」と言われる理由:回答者の76.8%が年間売上500万円未満
「行政書士は食えない」という声には、裏づけになる数字があります。日本行政書士会連合会(日行連)は、平成30年に続いて令和5年にも「行政書士実態調査」を行いました。令和5年の調査は2023年10月2日から11月13日まで会員向けのWebアンケートで行われ、回答は3,084件でした(「月刊日本行政」2024年3月号)。
| 年間売上高 | 人数(令和5年) | 割合(令和5年) | 割合(平成30年) |
|---|---|---|---|
| 500万円未満 | 2,370人 | 76.8% | 78.7% |
| 500万〜1,000万円未満 | 330人 | 10.7% | 11.3% |
| 1,000万〜2,000万円未満 | 146人 | 4.7% | 5.3% |
| 2,000万〜3,000万円未満 | 57人 | 1.8% | 1.8% |
| 3,000万円以上 | 91人 | 3.0% | 2.4% |
| 未回答 | 90人 | 2.9% | 0.4% |
※日本行政書士会連合会「令和5年行政書士実態調査集計結果について」(月刊日本行政 No.616・2024年3月)より。3,000万円以上の行は、公表された4つの区分(3,000万〜4,000万円未満・4,000万〜5,000万円未満・5,000万〜1億円未満・1億円以上)を当サイトで合計したものです。
4人に3人以上が、年間の売上で500万円に届いていません。ここでいう売上は、経費を引く前の金額です。事務所の家賃や会費、広告費を払った残りが手元に残るお金なので、会社員の年収と同じ物差しでは比べられません。
この数字は、割り引いて読む必要もあります。まず、Webアンケートに答えた会員の数字で、全会員を数えたものではありません。回答者のうち業務歴5年未満の人が51.8%と半分を超え、業務を始めて日の浅い人が多く含まれています。行政書士だけを仕事にしている専業は74.3%で、ほかの資格と兼ねている人は24.6%でした。1人で事務所を構える人が86.4%を占めます。業務歴の短い1人事務所が多い集団の数字として読んでください。
独占業務があるのに、なぜ売上が伸びないのか
独占業務があるのは事実です。行政書士法第19条は、行政書士でない人が報酬を得て官公署に出す書類や権利義務・事実証明に関する書類の作成を業とすることを、原則として禁じています。ただし独占とは「ほかの人はやってはいけない」という意味です。「依頼が自動的に集まる」という意味ではありません。
同じ調査で取扱業務の回答(複数回答・延べ12,937件)を見ると、多かったのは「相続、遺言」の11.9%と「建設業許可関係」の9.2%です。どちらも多くの事務所が手がけている分野なので、資格を持っているだけでは選ばれません。地域で何を専門にするか、どうやって依頼者に見つけてもらうかを自分で作る必要があります。開業後の売上の伸ばし方は行政書士の年収と、独立・副業で伸ばす道筋で、独立と転職の向き不向きは行政書士は独立と転職どっちかで詳しく比べています。
合格しても登録しないと「行政書士」と名乗れない
試験に受かっただけでは、行政書士として仕事はできません。行政書士法第6条で、行政書士になるには日行連の行政書士名簿に登録を受けることが必要とされています。登録は、事務所を設ける都道府県の行政書士会を通じて書類を出し、その会に入会する形です(日行連「行政書士になるには」)。
名前の使い方にも決まりがあります。行政書士法第19条の2は、行政書士でない人が「行政書士」やまぎらわしい名称を使うことを禁じています。違反すると100万円以下の罰金です(同法第22条の4)。名刺や肩書に「行政書士」と書けるのは、登録を済ませた人だけです。
登録には、まとまったお金がかかります。たとえば東京都行政書士会の登録・入会の案内では、登録免許税として収入印紙3万円、会費の3か月分として1万8,000円(政治連盟に入らない場合)を求めています。これに登録手数料と入会金が加わる形です。当サイトの行政書士の登録費用の内訳では、登録関連だけで初年度30万〜40万円が目安です。入会金は都道府県の会ごとに違うので、所属する予定の会で最新の金額を確かめてください。
【注意】行政書士の仕事を受けるには、合格のあとに登録が必要です。登録には登録免許税3万円のほか、登録手数料・入会金・会費がかかり、当サイトの目安では初年度30万〜40万円です。登録していない人が「行政書士」と名乗ると、行政書士法違反になります。
手続の順番は行政書士の登録までの流れにまとめています。会社員のまま登録せずにおく人もいますが、その場合は「行政書士として仕事を受ける」使い方はできない、と覚えておいてください。
会社員のままでも無駄にならない3つの使い道
開業しないなら取る意味がないかというと、そうではありません。行政書士の勉強が残すものは、資格の名前よりも中身の知識です。会社員のまま生かす道は、大きく3つあります。
1. 法務・総務や、許認可の多い業界で使う
建設業・運送業・不動産業のように役所の許可や届出がついて回る業界では、行政手続の知識がそのまま役立ちます。総務や法務の部署なら、契約書を読む場面が民法の知識の出番です。社内での使い方や転職で狙える職種は、行政書士は転職で活かせるかと未経験から行政書士事務所に就職する道のりで取り上げています。ただし、資格手当や昇給があるかは会社によって違います。取る前に、自社の就業規則や人事の制度を確かめておくと判断を誤りません。
2. 社労士・宅建など、次の資格の足場にする
行政書士の合格は、ほかの資格への入口になります。社労士試験の受験資格には「行政書士試験に合格した者」という区分があります(社会保険労務士試験オフィシャルサイト)。学歴の条件を満たしていない人でも、行政書士に受かれば社労士を受けられます。宅建の試験内容には「土地及び建物についての権利及び権利の変動に関する法令」があり、行政書士で学んだ民法が入口になります(不動産適正取引推進機構)。どの資格につなげるかは行政書士の次に取る資格の比較、組み合わせ全体の考え方はダブルライセンスの組み合わせ比較にまとめています。
3. 身につけた民法・行政法を、生活と仕事の判断に使う
試験の法令等は、憲法・行政法・民法・商法・基礎法学から出題されます(行政書士試験研究センター)。民法には契約・相続・時効といった、家庭でも職場でも出会う決まりが詰まっています。役所の決定に不服があるときの手続を定めた行政不服審査法も、試験範囲です。合格に届かなかったとしても、学んだ知識まで消えるわけではありません。
「受からない」と言われる理由:合格基準が3つあり、記述式もある
「行政書士は受からない」と言われるのは、試験に関門が3つあるからです。条件は、法令等で満点の50%以上・基礎知識で40%以上・試験全体で60%以上の3つです。1つでも欠ければ合格できません。令和7年度の配点では、法令等122点以上・基礎知識24点以上・全体180点以上でした(行政書士試験研究センター)。
全体で180点を超えても、基礎知識が24点に届かなければ不合格です。基礎知識は14問56点で、6問の正解が必要になります。法律の勉強だけに時間を使うと、ここで落ちる可能性があります。
記述式もあります。40字程度で書く問題が3問出て、1問20点・合計60点です。センターの受験案内には、択一式の採点で合格基準に届かないと分かった人は、記述式を採点しないことがあると書かれています。記述で逆転するつもりでも、まず択一で点を積まないと採点の対象にすらなりません。
| 項目 | 公式の内容 |
|---|---|
| 試験日 | 毎年1回、11月の第2日曜(13時〜16時) |
| 受験資格 | 年齢・学歴・国籍に関係なく、誰でも受験できる |
| 出題数・満点 | 60問・300点(法令等46問244点、基礎知識14問56点) |
| 合格基準 | 法令等50%以上・基礎知識40%以上・全体60%以上をすべて満たす(難易度による補正あり) |
| 記述式 | 40字程度・3問・1問20点 |
| 令和7年度の結果 | 受験者50,163人・合格者7,292人・合格率14.54%・合格者平均197点 |
| 直近10年の合格率 | 9.95%(平成28年度)〜15.72%(平成29年度) |
合格率は年度によって9.95%から15.72%まで動いています。同じ力でも、受けた年の問題によって結果が変わりうる試験です。
勉強時間はどうでしょうか。合格に必要な学習時間は、行政書士試験研究センターから公表されていません。よく見る「何百時間」という数字は、予備校や合格者の体験にもとづく目安です。確かなのは、試験が年1回なので、落ちると次の機会が1年後になることです。仕事と家庭の予定から、毎週どれだけの時間を出せるかを先に見積もってください。難しさの全体像は行政書士試験の難易度と合格率で詳しく見られます。
「誰でも受かる」「恥ずかしい」は本当か
「誰でも受かる」は、「誰でも受けられる」との取り違えです。受験資格がないのは事実で、年齢・学歴・国籍に関係なく申し込めます。しかし令和7年度は受験者50,163人のうち合格は7,292人で、85%以上が不合格でした。誰でも受けられる試験と、誰でも受かる試験は別物です。
「恥ずかしい」という言葉を、数字で裏づける材料は見当たりません。令和7年度の合格者の平均点は300点満点中197点で、合格基準の180点との差は17点でした。合格した人も平均で見れば、満点の65%ほどの得点で受かっている試験です。
年齢を気にする人もいるでしょう。令和7年度の合格者は30代1,923人・40代1,867人・50代1,445人でした。合格率は30代19.4%、40代15.4%、50代11.7%です。50代は全体の14.54%を下回りますが、50代の合格者は令和5年度1,295人・6年度1,175人・7年度1,445人と、直近3年はいずれも1,000人を超えています。結果を分けるのは年齢そのものより、毎週の勉強時間を確保できるかどうか、と見るほうが数字に合う見方です。40代から取る場合の考え方は、40代のリスキリングに行政書士を選ぶ理由で扱っています。
何度か落ちて「受からない自分が恥ずかしい」と感じている人もいるかもしれません。毎年8割以上が落ちる試験なので、不合格は珍しいことではありません。続けるかどうかの判断は、行政書士の再挑戦は何回目まで続けるべきかで、点数と生活の両面から条件を整理しています。
チェック表:あなたにとって時間の無駄になるか
取る目的ごとに、無駄になりやすいかどうかを分けました。自分に近い行を探してください。
| 取る目的 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 開業すれば、すぐ会社員並みに稼げると思っている | 無駄になりやすい | 回答者の76.8%は年間売上500万円未満。登録に初年度30万〜40万円が目安でかかる |
| 独立したいが、営業や集客はしたくない | 無駄になりやすい | 独占業務は依頼を集めてくれない。専門分野と集客を自分で作る必要がある |
| なんとなく箔をつけたい | 無駄になりやすい | 登録しなければ「行政書士」と名乗れない。使い道がないまま勉強の時間を使うことになる |
| 会社で許認可・契約・総務の仕事をしている | 無駄になりにくい | 行政手続と民法の知識を毎日の仕事で使える |
| 社労士を受けたいが、学歴の受験資格がない | 無駄になりにくい | 行政書士試験の合格が、社労士の受験資格になる |
| 宅建など、民法を使う資格も取りたい | 無駄になりにくい | 民法の勉強がそのまま次の試験の土台になる |
| 独立を考えていて、副業から試す時間がある | 条件しだい | 専門分野を決め、小さく始められるなら道はある。売上が伸びるまでの生活費の計画が要る |
「無駄になりやすい」に当てはまった人も、目的を変えれば判定は変わります。たとえば「開業して稼ぐ」を「会社の仕事に使う」や「社労士の受験資格を得る」に置き換えられるなら、勉強の時間は無駄になりません。
【ポイント】行政書士が時間の無駄になるのは、「合格すれば仕事が来る」と考えて取る場合です。日行連の令和5年調査では、回答者の76.8%が年間売上500万円未満でした。会社の仕事に使う人や社労士・宅建の足場にする人、専門分野と集客を自分で作れる人には無駄になりにくい資格です。
取ると決めた人が、時間を無駄にしない始め方
取ると決めたら、教材を開く前にやっておきたいことが3つあります。
1つ目は、取る目的を1行で書くことです。「会社の許認可の仕事に使う」「2年後に社労士を受ける」のように書いておくと、勉強が苦しくなったときに続ける理由になります。目的がはっきりしていれば、合格後に登録するかどうかも迷いません。
2つ目は、試験の形を先に知ることです。法令等が244点、基礎知識が56点という配点の差と、3つの合格基準を押さえてから教材を開いてください。配点の大きい行政法と民法に時間を寄せつつ、基礎知識の24点も落とさない計画にします。働きながらの時間の作り方は、働きながら行政書士に合格する方法で月ごとの進め方を示しています。
3つ目は、独学か講座かを早めに決めることです。どちらが合うかは、毎週出せる時間と、分からないところを自分で調べ切れるかで変わります。教材選びで何週間も迷えば、その分だけ勉強の開始が遅れます。講座を使うと決めた人は、行政書士の通信講座の比較表で価格と中身を並べて比べてみてください。
よくある質問
Q. 行政書士は、取っても意味がない資格ですか?
使い道を決めずに取ると、意味を感じにくい資格です。開業して稼ぐには、資格のほかに専門分野と集客が要ります。一方、会社で許認可や契約を扱う人や社労士の受験資格がほしい人には、はっきりした使い道があります。
Q. 登録しないなら、受かっても無駄ですか?
行政書士として仕事を受けることはできませんが、無駄にはなりません。社労士の受験資格は、行政書士試験に合格していれば満たせます。証明には合格証明書や合格証書の写しなどを使います(社会保険労務士試験オフィシャルサイト)。民法や行政法の知識も、登録の有無に関係なく残ります。
Q. 40代・50代から取っても遅くありませんか?
試験に年齢の制限はなく、令和7年度は40代1,867人・50代1,445人が合格しました。40代の合格率15.4%は全体の14.54%を上回っています。50代は11.7%と全体より低く、勉強時間をどう確保するかが課題になります。
Q. 何年も受からなかったら、それまでの時間は無駄になりますか?
民法や行政法の知識は残り、宅建など民法を使う試験の土台になります。ただ、同じやり方のまま回数だけ重ねるのは避けたいところです。落ちた直後にやることは行政書士試験に落ちたときの立て直し方にまとめています。
まとめ
行政書士は、「合格すれば仕事が来る」と考えて取ると時間の無駄になりやすい資格です。日行連の令和5年調査では、回答者の76.8%が年間売上500万円未満でした。合格しても、登録しなければ「行政書士」とは名乗れません。
会社の仕事に使う人や、社労士・宅建の足場にする人には、勉強が無駄になりにくい資格です。合格には3つの基準と記述式があり、試験は年1回です。取ると決めたら、まず目的を1行で書きましょう。そのうえで試験の形を知り、独学か講座かを早めに決めてください。
独学で始めるか、講座を使うかで迷ったらこちら

出典
- 日本行政書士会連合会「令和5年行政書士実態調査集計結果について」(月刊日本行政 No.616・2024年3月)、「令和5年度事業報告書」、「行政書士になるには」(2026年10月17日確認)
- 行政書士法 第6条・第19条・第19条の2・第22条の4(e-Gov法令検索・2026年10月17日確認)
- 東京都行政書士会「登録・入会のご案内」(2026年10月17日確認)
- 行政書士試験研究センター「試験の概要」「令和8年度行政書士試験のご案内」「令和7年度行政書士試験合否判定基準」「令和7年度行政書士試験実施結果の概要」「最近10年間における行政書士試験結果の推移」「最近3年間における行政書士試験の受験者・合格者の属性」(2026年10月17日確認)
- 社会保険労務士試験オフィシャルサイト「受験資格について」(2026年10月17日確認)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の概要」(2026年10月17日確認)
制度・費用・試験の内容は変わることがあります。申し込みや登録の前に、各団体の公式サイトで最新の情報を確認してください。
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